『前兆を知らずしててんかん診療はできません』
決して過言ではないと思います。
例えば,パーキンソン病の診療で非運動症状が重要であることと同じように,
例えば,救急診療の問診でAMPLE(allergy, medication, past history/pregnancy, last meal, event)を必ず聴取するのと同じように
てんかんの診断・治療においては「前兆」の問診は必要不可欠です。
<前兆とは>
前兆=運動症状以外の単純部分発作
<なぜ前兆が大事か>
通常,前兆は発作の開始症状でみられます。
そのため、前兆を把握することで発作焦点を推測することができます。
また前兆があるということは全般発作ではなく部分発作であることを示唆します(特異的な前兆であれば)。
感度特異度の問題はありますが、主に以下の表が参考にはなります。
表:てんかん発作の前兆一覧
<部分発作に先行する前兆>
例えば、「心窩部へ突き上げる感じ(epigastric rising sensation)」や「既視感(déjà vu:デジャブ)」などは内側側頭葉由来の前兆として有名です。内側側頭葉てんかんの発作の場合,前兆を経由して意識減損発作(複雑部分発作)に移行することが多いです。
意識減損発作を疑った場合は,発作前の前兆に,内側側頭葉由来の症候がなかったか、あるいは前兆が単独で出現するようなことがないかは重要です。
<全身けいれんの場合の前兆は?>
救急など,実臨床では,突然の全身けいれんで初発・搬送されるケースも多く,そのような場合は全般発作と判断されがちですが,そもそも成人発症てんかんにおいては全般発作の頻度は小児よりは低いです。
左右差のない全身けいれんだったからと安易に「全般発作」と判断せず,患者が自覚していない前兆がないかを検索することが大事
全身けいれんとは独立して「前兆だけが単独で出現」することもあるため,過去に経験がないか表の症候に関して網羅的に聴取することが大事です。
また患者さんによっては、長年の『前兆』を自分だけの体質だと思いこんでおり『てんかん発作』と認識していない場合があります。例えば『腹部症状』『痺れ』『めまい感』などは知っていないとてんかん発作だとは認識できないでしょう。
<注意点>
てんかん発作の評価で難しいところは、発作開始時が必ずしもてんかん焦点ではないということです。
例えば,後頭葉にてんかん焦点があった場合,後頭葉で生じたてんかん発作が後頭葉由来の症候を呈する(自覚する)間も無く迅速に側頭葉に伝播したとすれば,見かけ上の発作開始症状は側頭葉由来の症状となり,側頭葉てんかんと判断してしまうことがありますが,この判断は非常に難しいです.
大事なことは,前兆といえど100%てんかん焦点を示唆しないということを認識することです.
なお,先ほどの後頭葉の例で言えば,「後頭葉はseizure onset zone」,「側頭葉はsymptomatogenic zone」という概念になります.
ところで,追加で説明しますと,てんかん焦点切除術で必要となる切除範囲(発作を消失させるための切除範囲)はseizure onset zoneだけでは不十分なことがしばしばあります.
つまり,発作の始まる領域(コアなてんかん焦点)だけを切除しても切除範囲としては不十分なことがあるのです. てんかん原性領域(epileptogenic zone)が全て切除できれば発作は消失すると考えられていますが,「seizure onset zone +α」=「epileptogenic zone」であることが多いため,この+αの領域を含めたepileptogenic zoneの同定ということが大事になります,今後は術後seizure freeとなるために必要となる切除範囲(epileptogenic zone)が事前に予測できるようなsurrogate markerを見つけていくことが注目されています.
<大事なこと>
1) てんかん診療で「前兆」の確認は重要
2) 「前兆」とは非運動症状の単純部分発作
3) 「前兆」は多くは発作開始時症候であり,発作焦点の推定に有効
references:
1) Epilepsy surgery 2nd edition. Luders HO. 2001
2) Brain. 1978 Jun;101:307-32.Somatosensory epilepsy. A review of 127 cases. Mauguiere F, Courjon J. Neurology. 2002 Jan 22;58(2):271-6.
3) The localizing value of the abdominal aura and its evolution: a study in focal epilepsies. Henkel A1, Noachtar S, Pfänder M, Lüders HO.
4) OCCIPITAL LOBE EPILEPSY: ELECTROCLINICAL MANIFESTATIONS, ELECTROCORTICOGRAPHY, CORTICAL STIMULATION AND OUTCOME IN 42 PATIENTS TREATED BETWEEN 1930 AND 1991: SURGERY OF OCCIPITAL LOBE EPILEPSY. Brain (1992) 115 (6): 1655-1680.
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