てんかんと、抗てんかん薬と、血圧

『てんかんになってから高血圧症になったのですが、関連性はありますか?』
というお問い合わせをいただきました。「てんかん」「血圧」その関連性の一部を概説したいと思います。
一般事項として、
慢性脳疾患の「てんかん」には、確かにいくつかの合併症が知られていますが、「てんかんに高血圧症(本態性高血圧症)が合併する」というのは一般的ではありません。教科書にもそのような記載はないと思います。
ただし、『てんかんの並存疾患としての高血圧症』は知られており,疫学研究などの結果からは、成人てんかん患者さんの1割前後で高血圧症を有していることが報告されています。もちろん並存疾患というのは「並存」ですから、何かしらの間接的な関連性はあったとしても、「てんかんを発症した結果で、高血圧症を発症した」というような、強い因果関係を説明できるものではないと思います。
では相談の患者さんは本当に『てんかんを発症してから高血圧症になった』のでしょうか??
そうであればそれは偶然なのでしょうか?
あるいは、もともと高血圧症があったものの、てんかんになって初めて発覚されたのでしょうか?
<Clinical Question>
「てんかんになってから血圧が上昇したけど関連性はありますか?」と外来で問われても、「関係ないと思いますよ」と思わず即答してしまいそうです。ですが、患者さんの実感に基づいた訴えは、しばしば本質をついていることが多いのも事実です。この場合は「てんかんになって血圧が上がることが本当にあるのか?」というのがclinical questionになります。
患者さんの訴えから生じるclinical questionは貴重であり、われわれ医師が勉強させられることもしばしば経験しますし、新しい知見につながることがあるのも事実です。医師は常にclinical questionを大切に診療に従事しないといけません(と指導されてきました)。少し本題から逸れました。
<てんかんになってから血圧が上がる可能性>
やはり『てんかん』という慢性脳疾患・発作性疾患が高血圧症を新規に発症させることは一般的ではないですが、もともと全く血圧が正常だった方がてんかんの診断後に血圧が上昇したのが事実であれば、まず考えられる病態は抗てんかん薬(AED)の副作用でしょうか。
AED(抗てんかん薬)の心・循環器系の副作用であれば、不整脈血圧低下は一般的によく知られています。ですが、血圧上昇の副作用はあまり知られていません。添付文章を見てみますと以下の薬剤に「血圧上昇」の記載がありました。
aedhyper.png
これらの薬剤の中で、CBZ:カルバマゼピン(テグレトール)で血圧上昇したという症例報告がNeurology誌で2002年に報告されています。
cbzneurology.png
その後も幾つかの症例報告が散見されています。
中には、急激な血圧上昇に伴い脳症に至った症例の報告もあり、注意が必要なようです。
<カルバマゼピンと血圧上昇、その機序>
過去の報告では、以下のように血圧上昇の機序を考察しています
1)CBZとの薬物相互作用により、服用中の降圧薬の効果が減弱
2)CBZによる抗利尿ホルモンの産生
3)CBZによる交感神経系の活性亢進

1) については、もともと高血圧症を有していた場合になりますから、今回の相談ケースとは恐らく異なると思いますし、そもそもCBZは薬物相互作用の多い薬剤として知られていますので一般に注意されています。またCBZに限らずAED全般で言えることでもあります。
2) について、確かにCBZ投与後には、しばしばSIADHになり、血液検査では軽度の低Na血症を呈し、軽度であれば多くは無症候性です。実臨床でSIADHで問題となるような血圧上昇をきたすことはあまり経験しません(RAA系の作用)。
3) 三環系抗うつ薬と同じような機序で、交感神経末端でのカテコラミン再取り込みの抑制により血圧上昇を生じ得ることが考察されています。今回の相談ケースはこの機序に該当しているのかもしれません。
<補足1>
CBZで血圧が上昇した機序3)は、薬剤誘発性高血圧症といわれる病態で、NSAIDs、ステロイド、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬などで知られています。抗てんかん薬でのそれはあまり周知されていません。

<補足2>

今回のケースでは血圧上昇にCCB(カルシウム拮抗薬;アムロジピン)が使用されていたようです。CCBはCBZとの併用で作用が減弱する(アムロジピンの降圧効果が弱まる)ことがあります。今回の相談ケースではアムロジピン10mg/dayを要しており、この相互作用がために10mgまで増量が必要だったのかもしれません(推測です)。

<大事なこと>

・抗てんかん薬でも薬剤誘発性高血圧症が稀ながらあり、CBZは稀ながら血圧上昇をきたす副作用が報告されている(CBZ-induced hypertension)
・AED開始後には血圧の変動に注意(治療中の高血圧症のコントロールが悪化する可能性も考慮)
・Clinical Questionを大事に

References

Wilner AN. Common comorbidities in women and men with epilepsy and the relationship between number of comorbidities and health plan paid costs in 2010. Epilepsy Behav. 2014;32:15-20.
Jette N, A. Carbamazepine-induced hypertension. Neurology. 2002;59:275–6.
Bo GP. Arterial hypertension caused by carbamazepine. Riv Neurol. 1987;57:333–5.
Downey P. Refractory arterial hypertension and the use of anticonvulsant drugs. Case report. Rev Med Chil. 2001;129:1325–7.
Marini AM. Transient neurologic deficits associated with carbamazepine-induced hypertension. Clin Neuropharmacol. 2003;26:174–6.
Frangos Lordos E. Drug-induced refractory arterial hypertension. Rev Med Suisse. 2005;1(2522):2525–6.
Furuta N. Reversible posterior leukoencephalopathy syndrome associated with carbamazepine-induced hypertension. Rinsho Shinkeigaku. 2009;49:191–3.
★★脳波の推薦テキスト★★
『脳波判読オープンキャンパス(診断と治療社)』
・図書の詳細はこちら
・アマゾンでの購入はこちら
↓↓↓
71BwgFchlvL.jpg
本書の特徴はこちら
↓↓
sssssfgebwr.jpg
【てんかんテキスト】
「てんかん、早わかり! 診療アルゴリズムと病態別アトラス」
豊富なアトラスとアルゴリズムで諸学者向けのてんかんテキストです。
Amazonにて先行予約が可能となりました
【Amazon.co.jp】
【脳波のウェブ勉強会:毎週月曜日に開催】
参加希望はこちらをご参照ください。医学生・医師あるいは検査技師であれば医局や病院に関係なくどなたでも参加できます。
【脳波判読ハンズオン:動画コンテンツ(初学者向け)】
https://www.youtube.com/channel/UC8fQhXxMaey6Bm80ZHGm-ig
にほんブログ村 病気ブログ 医者・医師へ
にほんブログ村
にほんブログ村 病気ブログ てんかんへ
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました