心拍再開(ROSC)した低酸素脳症の急性期に抗てんかん薬は不要なのか?
心肺停止後にROSCに成功した場合、次にきになるのは低酸素脳症があるのかどうかです。循環動態が安定し鎮静もoffにしているにもかかわらず覚醒が得られない時は特に気になります。
循環は安定している、脳のCTをとっても重度の低酸素脳症はない、でも覚醒してこない、となると早く覚醒できるためには他に何ができるのだろうか?と誰しも思うでしょう。
rhythmic and periodic patternという脳波の異常パターン
ROSC後に意識障害が遷延している状況では、脳波検査を行うと一定の割合でrhythmic and periodic patternという脳波の異常パターンが見られます。rhythmic and periodic patternは多様な脳波パターンの総称なのですが、意識障害患者に広く見られる所見で、その中には抗てんかん薬が有効な病態も含まれます。もちろん低酸素脳症でもrhythmic and periodic patternは見られます。そこで、この脳波異常に対して抗てんかん薬での介入を行ったら神経学的な予後の改善に影響はあるのだろうか? という臨床の疑問が湧きます。
本日の論文
そんなこんなでの論文です。NEJMから。
オランダとベルギーの11 カ所のICUで実施されたオープンラベル試験です。
ROSCしたが昏睡状態にある172 例が登録され、抗てんかん薬での治療群の88例では脳波異常が完全抑制されるようにプロトコルにしたがって薬剤調整を受けています(24時間以内には73%で達成)。コントロール群は標準的なICU管理を受けています。
論文結果
結果は、神経学的な転帰不良は両群で差はなく、治療介入により転帰は改善されませんでしたというものでした。
個人的な感想
個人的なコメント:
研究としてはとても素晴らしいですし、臨床的な意義の高い研究と思います。一方でこの研究結果は正しく解釈しなければいけません。例えば「蘇生後脳症では抗てんかん薬を使っても意味がないんだ」というのは間違っていると思います。
まずミオクローヌスや脳波異常の中でも全般性の周期性放電が高い確率で見られている母集団ですので、登録患者の背景としては予後不良となる可能性が非常に高い重度の低酸素脳症が多く含まれていたと思われます。そのような母集団の転帰に影響を与える因子(しかもROSC後の介入として影響しうる因子)には当然限界があります。低酸素脳症は軽度から重度までかなり多様な集団ですので、「低酸素脳症」と一括りでまとめて実臨床への当てはめを行うことはできません。
また脳波異常の観点でも、そもそもrhythmic and periodic patternには多種のパターンが含まれます。その中の一つに、全般性の周期性放電(GPD)があるのですが、GPDはそもそも抗てんかん薬が有効ではない所見の一つのはずです。ですからGPDが効率に観察された母集団というセッティング自体に無理があったのではないかとも思います。
GPDではないrhythmic and periodic patternを認めるような症例にこそ、抗てんかん薬の急性期の投与に価値があるのではないかと思います。
もっと臨床的な観点で言えば、最重症ではない蘇生後脳症を対象に(いつかは自宅退院が可能となるような程度の症例)、急性期の脳波異常に対して治療介入することで高次脳機能障害の程度が少しでも軽減するかどうかがclinical questionとしてあります。高次脳機能障害の程度を少しでも軽減することが長期的な社会復帰率を高めることにつながると思うからです。その場合の急性期の脳波異常としては「GPDではないrhythmic and periodic pattern」が治療対象になるのではないかと思います。
Reference
Treating Rhythmic and Periodic EEG Patterns in Comatose Survivors of Cardiac Arrest
N Engl J Med 2022;386:724-34.
DOI: 10.1056/NEJMoa2115998
コメント