パープルデイに思うこと -てんかんの歴史と誤解と理解-

毎年3月26日はパープルデイ(Purple Day)です。
パープルデイは、てんかんに対する正しい理解を目的とした国際的な啓蒙・啓発キャンペーンです。
http://purpleday-jp.net/?page_id=419
「てんかん」に対する「正しい認識・理解」を社会は必要としていますが、残念ながら、未だ充分な(理想的な)状況とは言えないでしょう。
その背景には、「てんかん」に対する「誤解」や「偏見」といった暗い過去の歴史が関係していると言えます。
<なぜ啓蒙活動が必要なのか>
古代より西洋では,てんかんは「悪魔が取り憑き,神が助ける病気」と考えられていました。
そもそも「てんかん(epilepsy)」という言葉の語源ですが、ギリシャ語の動詞“epilambaneum”にあるとされ,「捕らえられる」状態,つまり“seized”あるいは“attacked”を意味すると言われています。
一方、紀元前400年には、ヒポクラテス全集では
「てんかんは脳の病。治療は食事と薬で行われ、宗教的儀式では思量できない」とすでに正しく評されていますが、このような正しい評価に社会の理解が追いつくにはその後長い年月を要しました。
日本では
「てんかんを正しく知る月間」の実施(2013年より日本てんかん学会・日本てんかん協会の共同)
パープルデイのキャンペーン活動など実施されています。
Epilepsia誌からも啓蒙活動のための記事が過去に報告されています(パープルデイの経緯についても触れられています)。
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<てんかんとは? その定義>
てんかんは、多種多様性な側面があり、その定義を明確化することは決して容易ではありません。
WHOでは「種々の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であり,大脳神経細胞の過剰な放電から由来する反復性の発作(てんかん発作)を唯一の症状あるいは主徴とし,これに種々の臨床症状および検査所見を伴う状態」と定義していますが、医療従事者でもやや難解。ILAEもその定義を幾度も訂正・改定しています。それだけ、てんかんという、多種多様な症候群の集合体を一括して定義することは難しいのだと思います。
定義上の重要点、キーワードは
1) 慢性の脳病態
2) 原則、発作がほぼ唯一の主症状
3) 発作は反復性
4) 大脳ニューロン由来

ということになります。
<病状説明、てんかんは「脳の不整脈」>
「てんかんは100人に一人」と頻度が高く,「あらゆる年齢で発症する脳神経の病気」である、いわゆるcommon diseaseです。
このことは、患者さんに病態を理解してもらう点の前提として重要です。
私見ですが、病状説明の際には、「不整脈」に例えて説明するとよいのではと考えます。
なぜなら「不整脈」と「てんかん」は、発作性の疾患という点では共通性があるからです。
つまり、
・ 発作間欠期(発作のない状態)では原則その脳機能(心機能)は正常
・ 発作時には脳機能(心機能)興奮または抑制された発作症状を呈する(不整脈なら頻脈または徐脈発作てんかんなら痙攣や脱力など)。
・ また治療は発作出現の予防薬、発作時の発作対応薬などで使い分ける点でも共通性があります。
一般に、「不整脈」は認知度も高く、「偏見や誤解」はてんかんと比較して少ないと思いますので、このようなcommonな疾患に例えることは「てんかん」の理解には役立つのではないかと考えます。
本記事もてんかんの理解の一助となれば幸いです。
<大事なこと>
「てんかんは100人に一人」のcommonな慢性脳疾患
「てんかんは脳の不整脈」のような発作性疾患
References:
Fisher RS, Acevedo C, Arzimanoglou A, et al. ILAE official report: a practical clinical definition of epilepsy. Epilepsia 2014;55(4):475-482.
Josephs D. Epilepsia. 2015;56(10):My epilepsy story–The Anita Kaufmann Foundation.
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