脳波の所見の付け方の話です。
脳波判読シリーズとしての記事
おもにお医者さん(脳波初学者)向けの記事になると思います。脳波判読の記事はたくさんの項目に分ける必要がありますから、今回は、シリーズ第一回として「脳波判読の原理原則(判読のための心得)」、特に所見の正しい付け方について簡単に触れます。次回シリーズより各論を説明する予定です。
<脳波が読めるようになるためのプロセス>
脳波の教科書は数多あり良書も多いですが、本を読めば脳波が読めるようになるかというと決してそうではありません。というのも残念ながら脳波は経験が全てです。経験が大事ということはつまり、一子相伝といいますか、脳波を正しく理解し指導できる指導者のもと学ぶということが必要不可欠になります。(ただしこの環境で学ぶことのできる初学者は非常に限られており、これが臨床脳波の大きな課題です)
私が思う、脳波判読の習得に必要な条件・プロセスは以下のとおりです
1) 自分でオーダーした脳波を自分で読む
2) 気になる波形を全てチェックし、その波形の所見を記載する
3) 脳波所見をもとに脳波レポートを下書きする
4) 知識と経験の豊富な指導医にチェックしてもらう
これを最低30回繰り返せば、脳波は一通り読めるようになると私は思っています。繰り返しになりますが、脳波は経験が非常に大事ですから、良書をたくさん読んでも脳波を読めるようにはなりません。
「自分で脳波を読んで、所見をつけて、それをreview」してもらわないかぎり、一人前の判読ができるようにはならないでしょう。ただし、ただ単に脳波を読めばよいかというとそうでもありません。
具体的には、上記プロセスの中で、2)が重要になります。というのも、初学者は脳波をチェックした後必ず「この波はなんですか?」と聞いてきますが、この聞き方でが上達しません。
「この波形」といった非科学的な表現は避けて、まずは正しく科学的に(所見に忠実に客観的に)表現する習慣をつけましょう。脳波において須らく全ての波形は適切に表現可能であり、この心がけは初学者にとって最も大事な最初のステップです。
<脳波の正しい所見の記載方法>
脳波には画像検査と同様に「正しい所見の表現方法」があります。
たとえば脳MRIであれば「右前頭葉の深部白質に認めるDWI高信号、ADC低信号の病変」などと表現するように、実際に画像を見ていない人がそれなりに想像できるような表現で所見を記載する必要があります。「所見を正しく表現すること」は、脳波を勉強する上で最も大事でかつ最初に習慣づける必要があります。
<脳波の所見の記載方法:原理原則>
所見の表現する上では最低限、以下の項目を含めて記載する必要があります。
たとえば、「安静覚醒閉眼時に数秒間持続する後頭部に限局した、O1とO2電極で最大の陰性波(9−10 Hz)」と表現すれば、これが正常の後頭部優位律動を表現していることは容易に想像できます。
波形を見ていない人でも、その波形が忠実に想像できるように、客観的かつ正確に所見を記載することが肝要です。
この中で覚醒度はないがしろにされがちですが脳波においては非常に重要な項目です。
というのも後頭部に見られる律動波形が、安静覚醒閉眼時にのみ見られれば後頭部優位律動ですが、開閉眼にかかわらず、あるいは覚醒状態(つまり「傾眠(drowsy)」あるいは「睡眠」)に関わらずで認めているのであれば、それは「後頭部に限局した局所徐波」の可能性を考慮する必要があり、解釈も全く異なってくるからです。
<具体的な所見の記載方法>
いくつか例を挙げてみます。
1)局所性のてんかん性放電が右前頭葉に睡眠中にのみ出現
Regional spike (8 Hz), right frontal max, every 3 pages during sleep
2)律動性の局在性の徐波が両側前頭部に間欠的に出現
Intermittent rhythmic delta (3 Hz), regional bilateral frontal max, 1/10-20 pages
3)全般性の棘徐波複合が一度だけ出現
Spike and wave generalized (3 Hz), bilateral frontal max, once during sleep
大事なことは、気になる波形を、ありのままに、かつ客観的に所見を記載する癖をつけるということです。周波数、分布、持続、最大点、覚醒度などの記載する順番はあまり気にする必要がありません。所見として客観性を持って伝わればよいのだと思います。
<大事なこと>
・脳波は、所見に忠実に、客観的に記載・表現する
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