幻のてんかん波 phantom spike

てんかんの診断に納得がいかない、という話です
前医で「てんかんと診断されたが、診断になっとくがいかない」という主訴で先日来院された症例です。
問診で確認した発作症候は「てんかん発作」とも「非てんかん発作」とも判断し難い症候でした。前医では、脳波でのてんかん性放電とMRIでの器質的異常を指摘され、てんかんとしての診断・治療を提案されたようでした。
持参の脳波はこのような感じでした
e.png
http://neurology.mhmedical.com/content.aspx?bookid=1042&sectionid=59078724
より転載
どうでしょうか?
そうですね、spike & wave complex(SWC)だと思います。
具体的には
spike & wave=尖ったspike成分(棘波)と、それに続くafter slow(徐波)がありますので、SWCといってよいと思います。またSWCの分布はfrontalからoccipitalまで広く分布しており、明らかな左右の差(潜時の差)はなさそうです。
SWCは数発連続して出現しています。
以上より、所見としては
A short run of SWC generalized (5-6 Hz), bilateral centoroparietal max, for 1 sec
といった記載でよいと思います。
<SWCを見た場合のポイント>
実は、所見としてSWCだからといって必ずしもてんかん性放電(=てんかんの診断)ということにはなりません。
SWC!(てんかん性放電だ!)に飛びついて、てんかんの診断を急ぐ前に、SWCを見た際のチェックポイントがありますので、確認していきましょう。大事なのは以下の4つです(主に最初の3つ)
<SWCのチェックポイント>
1) spike成分の振幅と、その最大点の局在
2) SWCの周波数
3) 左右差
4) 覚醒度
上記評価項目について、てんかん波らしいSWCかどうかを評価していきます。
具体的には
<てんかん波らしいSWC>
1) spike成分の振幅は50μVを超えることが多く、その最大点の局在はfrontal(前方)が多いです
2) SWCの周波数:6Hz未満が多いです
3) 左右差:全般てんかんであれば、左右差はありません。明確な左右差があれば部分てんかんとしてのてんかん性放電が二次的に両側性に伝播・同期している可能性があります
4) 覚醒度:睡眠時のみならず覚醒時にも出現するようなものは正常亜型ではない可能性が高くなります
では、この脳波の所見はどうでしょうか?
1) spike成分の振幅は小さいですね(スケールはありませんが50μV未満でしょう)、またその最大点の局在はfrontalではなく、より後方です。
2) SWCの周波数:6Hz前後です(1秒間に6回程度出現しています)
3) 左右差:明確な差はありません
4) 覚醒度:少なくともblink(瞬目)はなく、筋電図も少ないですね。わずかにdrowsyかもしれません。またO1 O2にはPOSTSのようにも見える波形があります。
以上より、てんかんらしいとされる特徴がほとんどありませんでしたね。
結論としては、
これは正常亜型(正常なSWC generalized)で phantom spikeといわれるものです。 SWCを見た場合に慌てずに以下のチェックポイントを確認することで、正常亜型のSWCをてんかん波と誤判読してしまうことを回避できます。幻のてんかん波(phantom spike)を本物にしないように注意が必要です。
<正常亜型をてんかん波と間違えないためのポイント>
大事なことは二つです。まずSWC generalizedを見た場合に、
1) spikeの成分が小さく
2) 周波数が6 Hz前後

であれば、てんかん波と判読する前に、Phantom spike (幻のてんかん性放電)の可能性を疑いましょう。疑うことが大事です。
さらに
3) spike成分の最大点が前方ではなく後方
4) 覚醒度が落ちている(傾眠から睡眠)ときにのみ出現
しているようなら、Phantom spike (幻のてんかん性放電)をさらに疑います。
<Phantom spike, WHAM type / FOLD type>
Phantom spikeはnormal variant(正常亜型の脳波)ですが、その中でも完全なnormal variantとされるパターンと、そうでないパターンがあり、両者を区別する必要があります。
これはPhantom spikeの論文ですが、61467症例の脳波のうち、6Hz SWCを認めた839例(52.6%にseizureあり)の検討を行い、てんかんとの関連性について評価しています。Phantom spikeは正常亜型とされますが、完全な正常亜型のパターンと、そうでないパターンがあるため、その違いに関する評価を行いました。
wwww.png
<正常亜型として特徴的なパターンのphantom:FOLD typeのPhantom spike>
F:female 女性
O:occipital 最大点が後頭部
L:low amplitude 低振幅(spikeあるいはslowも)
D:drowsy 傾眠時の出現

<てんかんとの関連性がありえるパターンのphantom: WHAM type のPhantom spike>
W:wake 覚醒時の出現
H:high amplitude 高振幅
A:anterior 前方が最大点
M:male 男性

whan.png
臨床的には、phantom spikeを疑う所見が必ずしもこの二つのtypeに綺麗に分類されるというわけではなく、「O:occipital 最大点が後頭部、L:low amplitude 低振幅だが男性」ということもしばしばあります。FOLDの項目をたくさん満たしていれば正常亜型に近いものでありWHAMの項目の3つを満たしていれば、少し注意が必要ということになりますし、WHAM全項目がある場合は、そもそもphantom spikeではなくてんかん性放電の可能性もあります
<大事なこと>
・ SWC generalizedを見てもすぐにてんかん性放電と決めつけない
・ 振幅の大きさ、局在を必ずチェックする
・ Phantom spikeには二つのtypeがあり、FOLDは完全な正常亜型あり、WHAMはてんかんとの関連性あり
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