ケトン食は成人てんかんでも有効か？

てんかんの治療法には、内服治療、外科治療に加えて食事療法があります。「ケトン食療法」はてんかんの代表的な食事療法です。
従来から、小児てんかんでその適応がなされてきました。成人てんかんに対しては、有効性を報告するものはあるものの、まとまった報告はなく、その有効性については確立されていません。これまでに実施された成人てんかんでの食事療法のメタアナリシス研究が報告されました。

2017年前に報告された研究のうち
１）成人難治てんかんを対象とし
２）ケトン食療法の効果を検証し
３）てんかん発作の減少率などのoutcomeとして評価した論文を検証対象としています。
上記基準を満たした該当論文数は１６個（8ヵ国からの報告）であり、計338名の患者（16−86歳）が含まれています。いずれも研究も対象のてんかん患者には、てんかん発作が2−3回/日と高頻度にあり、薬剤難治です。

＜ケトン食療法の治療効果に関する結果＞
・発作消失率：13%
・50%以上の発作消失率：53%
・50%未満の発作消失率：27%

副作用・合併症は重篤なものは含まれていませんでしたが、
・体重減少
・LDL−コレステロール値の低下
・総コレステロール値の上昇
などがありました。

本研究の結果より、ケトン食療法は、成人てんかん（難治てんかん）においても、発作抑制の一定の効果が期待できるようであり、それに応じた副作用・合併症については比較的軽度のものでした。
すでに抗てんかん薬が投与されていても発作が見られている難治てんかんの場合、追加の抗てんかん薬の投薬にて発作消失する可能性は低いことが知られていますので、発作消失13%あるいは発作半減以上が50%以上あるという点は、重要なデータだと思います。
＜長期的な影響は？＞
問題は長期的にはどうかということでしょう。
つまり、長期的にケトン食を継続できるのか？現実的にそのような食事形態を本人が実施・継続できるのか？あるいは、長期的な合併症という観点で本当に問題がないのか？というのは大事な点です。
コレステロール値の異常は成人において、程度の差はあれ、万人に許容できるものではありません。短期的には問題がなくても、長期的には脳卒中などの合併症のリスクを高めるかもしれません。抗てんかん薬の長期的な副作用としての「コレステロール値の異常」も最近ようやく注目されてきた問題です。今後、データの蓄積が必要と思います。
なお、ケトン食療法といっても、その食事療法の形態は一様ではありません。古典的ケトン食療法以外に、修正アトキンス食療法など、食事制限の内訳が一様ではなく、どの食事療法がよいのか、あるいはてんかんのタイプに応じて適応すべき食事療法が異なるのかは、大きな課題です。
糖尿病の食事療法では糖質制限食が近年特に注目されていると思います。てんかん臨床においても、まだまだデータの蓄積と検証が望まれます。
References
Wilder RM. The effect of ketonemia on the course of epilepsy. Mayo Clin Bull 1921;2:307
Neal EG, Chaffe H, Schwartz RH, et al. The ketogenic diet for the treatment of childhood epilepsy: a randomised controlled trial. Lancet Neurol 2008;7:500–506.
Lefevre F, Aronson N. Ketogenic diet for the treatment of refractory
epilepsy in children: a systematic review of efficacy. Pediatrics 2000;105:E46.
Hemingway C, Freeman JM, Pillas DJ, et al. The ketogenic diet: a 3- to
6-year follow-up of 150 children enrolled prospectively. Pediatrics 2001;108:898–905.
Ketogenic diet for treatment of intractable epilepsy in adults: A meta-analysis of observational studies Epilepsia Open, 3(1):9–17, 2018
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