脳波における三相波の知名度は高く、古典的には肝性脳症で見られる特徴的な脳波所見とされます。
医師国家試験の受験の際には、三相波=肝性脳症と覚えていたのを記憶しますが、臨床的には三相波はあらゆる代謝性脳症(肝不全、尿毒症、感染症など)で見られます。
三相波は;
1)70μV以上の陽性棘波(図の青点)の前後に振幅が小さい陰性棘波(図の赤点)で構成される”blunted spike and wave”
2)分布は前方優位のびまん性、左右同期性
3)1.5〜2.5 Hzの周波数帯
などの脳波所見としての特徴があり、
・通常は、軽度から中等度の意識障害で見られる(昏睡状態では出現しない)
・10歳未満では出現しない
という臨床的特徴もあります。
三相波の判読上、注意が必要なのは
三相波と、てんかん性放電(全般性のspike/sharp waveなど)の鑑別がしばしば困難な点にあります。
一方で、臨床的に肝性脳症と診断された患者の脳波では、てんかん性放電(spike/sharp wave)を認める場合もあります。てんかん性放電を認めた肝性脳症のほうが、認めない肝性脳症患者より、転機不良と関連することが報告されており(1)、臨床的にも重要とされてきました。
ここからは一部私見です。
肝性脳症を含めた代謝性脳症は、NCSE (non-convulsive status epilepticus)を合併する場合があります。また、肝性脳症による急性の意識障害と診断するも、本当はNSCEだったとする報告も近年散見されます(2, 3)。
「肝性脳症にてんかん性放電があれば転機不良」と単純に結論づける前に、肝性脳症と臨床診断した場合には、
・NCSEの合併がないのか
・あるいは高アンモニア血症は血液検査上認めるも、意識障害の原因の主体はNCSEではないか
という可能性を念頭に置く必要もあると考えます。
以上のことより、臨床的に肝性脳症と診断した場合には、やはり脳波評価は必要で、三相波だけではくてんかん性放電やEEG seizure patternがないか、そして脳波所見と意識状態の相関性が妥当かを検討する必要があると思います。
References
1Ficker DM, Westmoreland BF, Sharbrough FW. Epileptiform abnormalities in hepatic encephalopathy. J Clin Neurophysiol. 1997;14:230–234.
2Jhun P, Kim H: Nonconvulsive status epilepticus in hepatic encephalopathy. West J Emerg Med 2011, 12:372–374.
3Tanaka H, Ueda H, Kida Y: Hepatic encephalopathy with status epilepticus: a case report. World J Gastroenterol 2006, 12:1793–1794.
American Clinical Neurophysiology Society’s Standardized Critical Care EEG Terminology: 2012 version
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